チンダル  IYNOALL John

アイルランドの物理学者

[生]カールローのライリンブリッジ  1820.8.2

[没]コイングランドのサリー州のハインドヘンド,1893.12.4

 

チンダルの受けた教育は行き当りばったりのもので,学校卒業後はじめ市の職員となり,次に鉄道技師となったが,学問への情熱が深く,広範囲にわたり読書をし,聞ける講演は全部聞き,最後はドイツのマールブルク大学にはいって,ブンゼンの教えを受け,1851年に,学位をとった。

1852年には王立協会の一員に選ばれた。1854年には王立研究所の自然哲学の教授となり,10年以上もファラデーの同僚となり,ファラデーの尊敬者であり,その死後はファラデーのあとを継いだ。チンダルの最も重要な専門研究は気体を伝導する熱に関するものであるが,最もよくその名を知られるようになったのは溶液中を通過する光の状態の分析である。純水や,グレーアムが晶質と名づけた物質の溶液中を通る光はそれによって妨げられることはない。溶液や水を通過する光は横のほうから見ても見えるものではない。

しかしコロイド溶液を光が通過するときには,コロイド粒子は大きいので光を散乱させる。光の一部分は粒子によってすべての方向に“はね飛ばされる”ので,側面から見るとぼんやりとした光線が見える。彼の研究によりこのような現象はチンダル現象と名づけられた。それから30年後ジクモンディはこの現象をもとにして限外顕微鏡を開発した。

レーリーの研究により光の散乱の効率が波長の4乗に反比例することがわかった。別の言葉で言えば,赤色の半分の波長をもつすみれ色は赤色の2倍の強さで散乱する。

このことからチンダルは空が青い理由を説明することができた。太陽光線は常に大気中に存在している塵の粒子(コロイド状の大きさ)によって散乱させられる。日蔭にはいっても本が読めるほど明るいのはそのためであり,大気が存在しない月のような世界では日蔭はまったくの暗やみとなる。分散が最も激しく行なわれるのはスペクトルの青の端にある光波であり,晴れた日の空はこの散乱光によって青く見えるのである。太陽光線が厚い大気層を通過するならば(日没のときのように),大きな火山が爆発したあとのように,とくに大気が汚れているときにはかなり長波長の光も散乱して空は緑色となり,太陽から目にはいる光はスペクトルの赤の端にある散乱しない光だけとなり,太陽の色はオレンジ色か赤色に変化する。

チンダルはまた空気中の塵の中には微生物がはいっていて,肉汁が簡単に有機物で荒らされるのはそのためだと説いた。長い間,生物学者たちがまどわされて(生物自然発生説が通用していた原因はこの微生物にあったのであり,パスツールは肉汁に塵をつけないようにするだけで肉汁を腐敗させないことに成功した。チンダルはその生存中は科学者としてよりも科学の普及解説者として有名だった。マックスウェルが開発した分子運動としての熱の新理論を一般に普及させたのはチンダルが最初であり,1863年に出版された“運動の一形態としての熱”と題する書物は何回も版を重ねた。ヘルムホルツのエネルギー保存の原理を普及させたのも彼であり,そのほかにも,水,光,空中の塵について多くの科学普及書を著わした。1872年と72年に,彼はアメリカへ講演旅行をして大成功し,その収入をアメリカ科学の発展のために寄付した。