3.熱素説の否定                          
砲身旋削の実験へ
産業革命期は、蒸気機関改良の理論的基礎として、熱学の研究が盛んであった。それでは、当時熱とはいかなるものであると考えられていたのだろうか。熱は「熱素」(caloric)という重さのない弾性物質であって、その粒子は相互に反発し、他のすべての物質からは強く引かれていると考えられていた。この考え方が熱素説である。この考え方を使ってほとんどの熱現象が説明できたので、一般にこの説が信じられていた。今日熱量をはかる単位としてカロリー[cal]が用いられているが、これは熱素説に由来するものである。左図は熱素圏に取り巻かれたドルトンの原子である。
 
しかし、熱素説では説明できない事実があった。それは摩擦による温度の上昇である。これを説明するために考え出された理論が熱運動論である。この熱運動論の立場にたったのがランフォード(Rumford 1753〜1814)である。彼のいくつかの実験について考えてみよう。


実験1.

2つの同じ大砲に等量の火薬を使用し、一方には弾丸を込め、他方には弾丸を込めずに発砲した。このときの砲身の熱さを比べる。

 
◇ランフォードの実験予測(推論)


砲身の加熱は、熱素説に従えば火薬の発熱に基づくと考えられる。したがって、弾丸を込めて発砲するときの方が火焔が砲身内に長く閉じこめられていることになるので、砲身はより熱くなると考えられる。







Q4.ランフォードの実験予測は、熱素説の立場にたって行われた。この立場に従えば、ア、イ、どちらの場合がより熱くなると考えられるか。

                                                                             

◇実験事実

弾丸を込めなかった方が込めた方に比べて、ずっと熱くなった。

この実験事実からランフォードは、上記の実験予測の推論は誤っていると考え、この実験事実を説明するために次のように推論を訂正した。

実験事実から、上記の推論は誤りであると考えられる。砲身加熱の原因は火薬の燃焼による発熱に基づくものではない。原因はほかに1つだけ考えられる。すなわち砲身内面に対する火薬の爆発による急激な作用によって引き起こされる金属内部における金属原子相互間の運動と摩擦である。これこそ砲身加熱のすべてではないにしても、主な原因である。
Q5.ランフォードはなぜ「砲身加熱の原因を火薬の燃焼による発熱に基づくものではない」と結論したか。各自説明せよ。
 
 

 

 

 

 

 
 
 
 
実験2.砲身旋削の実験
 


固定した鋼鉄のくり抜き棒に太い円筒をはめ込み、円筒部分は下図のよう木製の容器で取り囲み中に水を入れておき、大砲ごと円筒部分を回転させると、水は沸騰し、回転をやめない限り、沸騰し続けた。
 ランフォードは、この実験事実を次のように説明した。
 
 ◇ランフォードの推論
  
筒が回転し続ける限り水は沸騰し 続けるので、熱は無尽蔵に出てくると 考えられる。発熱の原因が円筒内に貯えられた熱素の放出によるものならば、無限に出てくることは有り得ない。したがって、発熱の原因は熱素の放出ではない。 
 
 
 
Q6.ランフォードが発熱の原因を熱素の放出でないと考えた理由を述べよ。
 

 ランフォードは次のように結論した

発熱の原因はくり抜き棒と円筒の間の摩擦によって生じる金属原子の運動と考えられる。ゆえに、熱の本質は物体内部の原子の運動である。この説を熱運動論と言う。
 
Q7.実験2で、発熱の原因は何か。
 
 
Q8.ランフォードは、熱とはいかなるものであると結論したか。 
 

◇課題実験1

摩擦によって熱が出てくることを確認する実験を考えよ。