.ジュールと熱の仕事当量

 

 さて、本事例史の中心であるジュールの熱の仕事当量の実験に入る前に、なぜ彼が仕事と熱の関係を考えるようになったのか、見てゆくことにする。

彼は最初、スタージョン(William Stargeon,1783〜1850)によって発明されたばかりの電磁エンジンに興味をもっていた。

電磁エンジンを改良して、蒸気機関に代わるべき、より経済的な動力源を実用に供そうとしていたのである。

この目的は達成されなかったが、ジュールは電磁エンジンの改良に従事するうちに、電流の通過による金属の発熱に注目し、

この現象を究明しようと企てた。
 
容器に入れた水の中に針金のコイルを浸し、これに化学電池を用い、電流を通して水温の上昇を


精密な温度計で測定するとともに、


電流計によってコイルに通じた電気の量を測った.
 
[結論]

「当量の電気の通過の熱的効果は、回路を形成する金属の長さ、太さ、形状、または種類のいかんに


かかわらず、電気の通過に対する抵抗に比例する。また、他の条件が同じならば、この効果は通過する


電流の2乗に比例する。」


 

ここに見いだされた関係は、今日「ジュールの法則」と呼ばれるものにほかならない。

Q=k・I・R・t

Q:熱量[cal]  I:電流[A]  R:抵抗[Ω] 
   t:時間[s]    k:比例定数


上記の実験の詳細は、翌1841年のPhilosophical Magazineに発表された。

その中では、以上のほかに、電池内で進行する電気分解と全回路についての

発熱量との関係にまで研究が拡張されているが、

ジュールはこの場合にも同じ法則が成立することを実験によって明らかにした。


 
◇課題実験2

[目的]ジュールの法則を検証する。
[方法]1.図のように電源、すべり抵抗器、電流計、ニクロム線を直列につなぎ、

ニクロム線の両端に電圧計をつなぐ。

2.すべり抵抗器を調節して、ニクロム線(抵抗5.0Ω)に

一定の電流(1.0A)の電流が流れるようにする。

3.5分間電流を流し、水の温度変化を測定し、発生した熱量を計算する。

4.ニクロム線の抵抗を10Ω、15Ω、20Ωと変えて

同様の操作を繰り返す。

5.次に、ニクロム線の抵抗を一定(5Ω)にして、すべり抵抗器を調節して、

流れる電流を1.0A、2.0A、3.0A、4.0Aと変化させ、5分間電流を流し、

水の温度変化を測定し、発生した熱量を計算する。

 

 


電流(A)

電圧(V)

抵抗(Ω)

温度の変化(℃)

温度上昇

発熱量




 




 




 




 

   ℃


 

   cal


 
 

次にジュールは、電池の代わりに発電機を用いて回路に電流を流し、この電流(誘導電流)もジュールの法則に従うかどうか調べることにした。

 
発電機を媒介にして仕事を電流に変え、ジュール熱を測定した。

[結論]

 誘導電流の場合も、ジュールの法則に従う。

◇課題実験3

 課題実験2で、電源として発電機を用いて、同様な実験を工夫せよ

電流(A)

電圧(V)

抵抗(Ω)

温度の変化(℃)

温度上昇

発熱量




 




 




 




 

   ℃


 

   cal


 
 
 
 
以上によって発電機による電流と熱の関係が判明したので、彼の次の問題は発電に要する力学的仕事と熱の関係であった。


彼は装置に工夫をこらして力学的仕事を測れるようにした。次にその装置を示すことにする。

 

 

 

磁界

  →

  →

  →

  →

水を入れたガラス管に電磁石をいれ、

これを磁界中で回転させる。
左図のように、回転させるべき軸に糸を巻き付け、


糸は滑車を通って分銅をのせた皿につなぐ。

こうすれば軸にはたらいた仕事は、


分銅の重さとその降下距離とから簡単にわかる。



この実験はきわめてむずかしいものであるが、


彼はこれから1ポンドの水を1F暖める熱は


838フィート・ポンドの仕事に相当するという結果を得た。



Q9.上記のジュールの実験結果から、水1gを1℃高めるのに必要な熱量は何[J]の仕事に相当するか計算せよ。


ただし、1ポンド=453g、1F=5/9℃、1フート・ポンド=1.36Jとする。