文学名言集 |
太宰 治 |
この作家の弱さと優しさが、とても好きです。はっきり言って私は、ファンの一人です。
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ヴィヨンの妻 | 弱さゆえに情が動く。 |
斜陽 | 不良でない人間があるのだろうか、とあのノートブックに書かれていたけれども、そういわれてみると、私だって不良、叔父様も不良、お母様だって不良みたいに思われてくる。不良とは優しさのことではないかしら。 |
葉 | 生まれてはじめて算術の教科書を手にした。小型の、まっ黒い表紙。ああ、中の数字の羅列がどんなに美しく眼にしみたことか。少年はしばらくそれをいぢっていたが、やがて巻末のペエジにすべての解答が記されているのを発見した。少年は眉をひそめて呟いたのである。「無礼だなあ。」 |
昔の日本橋は、長さが三十七間四尺五寸あったのであるが、いまは廿七間しかない。それだけ川幅がせまくなったものと思わねばいけない。このように昔は、川と言わず人間といわず、いまよりはるかに大きかったのである。 | |
安楽なくらしをしているときは、絶望の詩を作り、ひしがれた暮らしをしているときは、生のよろこびを書きつづる。 | |
「秋まで生き残されている蚊を哀蚊というのじゃ。蚊燻しは焚かぬもの。不憫の故にな。」 | |
芸術の美は所詮、市民への奉仕の美である。 | |
Human Lost | かりそめの、人のなさけの身にしみて、まなこ、うるむも、老いのはじめや |
鴎 | 私は漂白の民である。波のまにまに流れ動いて、そうしていつも孤独である。よいしょと、水たまりを飛び越して、ほっとする。 |
美少女 | 猫と女は、だまって居れば名を呼ぶし、近寄っていけば逃げ去る、とか。 |
東京八景 | 「恋愛とは」「美しきことを夢みて、汚らわしき業をするものぞ。」 |
津軽 | 「信じるところに現実はあるのであって、現実は決して人を信じさせることはできない。」という妙な言葉を、私は旅の手帖に、二度もくり返して書いていた。 |
つまりお互いに大人になったのであろう。大人というものは侘びしいものだ。愛し合っていても用心して、他人行儀を守らねばならぬ。なぜ、用心深くしなければならぬのだろう。その答えはなんでもない。見事に裏切られて赤恥をかいたことが多すぎたからである。人はあてにならないという発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは裏切られた青年の姿である | |
女生徒 | 電車の入り口のすぐ近くに空いている席があったから、私はそこへそっとお道具をおいてスカアトのひだをちょっと直して、そうして坐ろうとしたらしたら、眼鏡の男の人が、ちゃんと私のお道具をどけて席に腰かけてしまった。 「あの、そこは私の見つけた席ですの。」と言ったら、男は苦笑して平気で新聞を読み出した。よく考えてみるとどちらが図々しいかわからない。 |