太宰 治 |
抜粋文
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女生徒 |
美しさに内容なんてあってたまるものか。純粋の美しさは、いつも無意味で、無道徳だ |
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愛情の深い人にある偽悪趣味。 |
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幸福は一夜おくれてやってくる。ぼんやりそんな言葉を思い出す。幸福を待って、待って、とうとう堪えきれずに家を飛び出してしまって、そのあくる日に、すばらしい幸福の知らせが、捨てた家を訪れたが、もうおそかった。幸福は一夜おくれてやってくる。 |
火の鳥
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自信というものは、自分ひとりの明確な社会的な責任感ができて、はじめて生まれてくるものじゃないか。 |
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世の中はつらいのだ。きびしいのだ。一日、一日、僕には、いまの世の中の苛烈が身にしみる。みじんも、でたらめを許さない。 |
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いいかい真実というものは心で思っているだけでは、どんなに深く思っていたってどんなに固い覚悟を持っていたって、ただ、それだけでは、虚偽だ。いんちきだ。胸を割って見せたいくらいまっとうな愛情をもっていたって、ただ、それだけで、黙っていたんじゃ、それは傲慢だ、いい気なもんだ、ひとりよがりだ。真実は行為だ。愛情も行為だ。表現のない真実なんてありゃしない。 |
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人間なんて、そんなにたくさん、あれもこれも、できるもんじゃないのだ。しのんで、しのんで、つつましくやってさえゆけば、渡る世間に鬼はない。それは信じなければいけないよ。 |
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過ぎ去ったことは、忘れろ。さういっても、無理かもしれぬが、しかし人間は、何か一つ触れてはならぬ深い傷を背負って、それでも、堪えてそしらぬふりをして生きているのではないのか。おれは、さう思う。 |
冬の花火 |
やっぱり花火というものは、夏の夜にみんな浴衣を着て庭の涼臺に集まって、西瓜なんか食べながらパチパチやったら一番綺麗に見えるものなのでしょうね。でもそんな時代は、もう永遠に、永遠に来ないかもしれないわ。冬の花火、冬の花火。ばからしくて間が抜けて、清蔵さん、あんたも、私も、いいえ、日本人全部が、こんな冬の花火みたいなものだわ。 |